本の紹介『日本の経営<新訳版>』

目次

はじめに

 訪問看護ステーションと取り巻く現状として、医療保険制度の変更や少子高齢化の影響、景気動向や医療技術の進展といったマクロ要因はニュース等で目にする機会も多いと思います。これらの要因は訪問看護ステーションの運営にも間違いなく影響してきますが、これら以外にも日々の仕事に影響を与えているものを感じることはないでしょうか。例えば文化・風習・慣習といったものです。こういった暗黙の前提になっているものは、その社会で暮らす私たちにとってなかなか見えにくいものです。しかし、時としてこのような暗黙の前提に困らされることも出てくるのではないかと思います。
 今回紹介する本は、1958年に出版されたものです。アベグレンというアメリカ人の研究者(1997年に日本国籍を取得)が文化人類学的な手法を用いて研究を進めました。1955-56年にかけて日本の工場を訪問し、日米の工場比較を社会組織の面から行い、日本的経営の特徴を明らかにしています。

 日本の経営<新訳版>

日本的経営の3つの特徴:終身雇用、年功序列、企業内組合

 本書が有名なのは上記の日本的経営の特徴を主張したことです。実際には、終身雇用ではなく終身の関係(Lifetime commitment)と書かれていますが、世間には終身雇用が日本の特徴であると広まりました。そして、日本の産業の工業化と急速な経済成長の理由として、欧米から導入した技術を日本の価値観に基づいて構築した企業組織に取り入れたからだと結論付けました。

今も残る「終身の関係」

 本書の出版年は1958年と古いですが、今読んでも色あせない印象を日本の読者に与えるのではないかと思います。原著を読んだわけではありませんが、私が読んだ新訳の訳文はとてもよいと感じました。特に、「終身雇用」ではなく、「終身の関係」と記述されていることに私はハッとさせられました。
 みなさんのステーションは新しく人を雇うとき、終身の関係となることを意識していますか?それとも期間の定めがある関係と考えていますか?これは大きな違いで、その後の教育や評価、そして仕事のやり方も変わってきます。このことに意識が向いて、ステーション運営をしているところはあまり多くはないのではないか、という印象を持っています、

まとめ

 暗黙の前提はなかなか意識しづらいものです。そんなとき、外部の人の目というものはそういった見えていなかったものを目の前に引き出してくれることがあります。アベグレンが60年以上前にみた日本の経営の特徴は、今を改めて考えるきっかけを提供してくれます。

参考文献

Abegglen,J. C.(1958)『The Japanese Factory Aspects of Social Organization』(山岡洋一訳(2004)『日本の経営<新訳版>』,日本経済新聞社)
宮田矢八郎(2001)『経営学100年の思想』206-215頁,ダイヤモンド社

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