看護管理の教科書に出てくる「科学的管理法」をあらわした テイラー(Frederich Winslow Taylor)とはどのような人物で何をしたのか

目次

はじめに

 私が読んだ限りの範囲での話ですが、看護管理や認定看護管理者の教科書を読むと経営学史でも初期の重要な人物の名前を見かけることが多くあります。数行ではありますが、その人物が主張した(あるいは発見した)ことの説明がなされています。例えば、テイラー、ファヨール、メイヨー、バーナードなどです。今回、テイラーについて、どんな人で何をしたのかを簡単な説明します。テイラーを知ることで、看護管理などの教科書を読むときの手助けになればと考えています。

テイラーの略歴

 テイラーは1856年にフィラデルフィアで弁護士の息子として生まれました。勉学の結果、ハーバード大学への入学許可を受けたが、目を病んで果たせず、同市郊外の小工場の機械工見習として社会生活を踏み出しました。この後22才でミッドベール・スチール会社に移り、勉学をかさね技師長に昇進し、アメリカ機械技師会(ASME)の会員にな離ました。ミッドベールでの12年間の勤務ののち、彼は迎えられてベスレヘム・スチール会社の能率顧問となったが、程なくそこを辞して、実際経営の指導と著作に従事し、1915年に59歳で亡くなりました(松岡,1969)。

テイラーの著作

 ミッドベール時代に開発した出来高払制について、1895年に『出来高払制私案』(A Piece Rate System )をASMEで発表しました。ベスレヘム後の1903年に『工場管理法』(Shop Manegement)を出版し、所論を統一的な形で提示しましたた。そして、ウォータータウン兵器廠の最後の年の1912年に『科学的管理法の原理』(Principles of Scientific Manegement)を発表しました(宮田,2001)。

テイラーの主張とその問題点

 テイラーは「エコノミストとしての技師」として、管理の技術のもっとも重要な部分が労働者と雇用主の関係にあることを認識し、その双方がともに追求すべき目標を高賃金と低労務費の両立におき、この両立を可能とする方途を、技師として鍛えられた目を持って追求しました(松岡,1969)。
 一見矛盾するように考えられるこの条件(high wages and low labor cost)を達成するために、テイラーは第一級労働者に注目しました。第一級労働者とは、一般の労働者の2−4倍の能率で働くが、賃金面では他の労働者より30-100%多ければ十分満足している労働者のことで、このことはテイラーが実際の経営の場で観察した現象から考えを得たものでした(松岡,1969)。
 もし第一級労働者の1日に行う仕事ー課業(task)ーを確定し、他の労働者に行わせることができれば、たとえ高賃金を払っても低労務費は確保できるはずである。課業の設定に当たっては、勘や経験に依存するのではなく、ストップ・ウオッチを用いた時間研究などを行なうべきだと主張しました(松岡,1969)。
 ところがこの課業の設定においては大きな問題点があ離ました。それは、熟練労働者が訓練を受けた一般労働者によって代替され仕事を失うこと、および、技術的な熟練や体力における個人差が機械によってカバーされていない作業を熟練や体力の劣る労働者に極限に近い労働を強いる恐れがあることである。これらの点はのちに発生する課業管理をめぐる労使紛争(1911年ウォータータウン兵器廠におけるテイラーシステム反対をスローガンに掲げたストライキ等)の一つのポイントともなるものであるが,テイラーは極めて楽観的にこれらの点から目をそらしてしまっていました(松岡,1969)。
 課業が設定されれば、次の問題はいかにして他の労働者にそれを遂行させるかで、テイラーは標準的諸条件の設定に加え、金銭的刺激と監督者による監視と指導の網の目をいっそう細かくする機能的職長制を導入して、管理の仕事そのものに分業の原理を導入することを提唱しました(松岡,1969)(宮田,2001)。

実務への貢献

 テイラーの所論は、動作研究や時間研究による作業の標準化と出来高払制による生産性の向上は現在の生産管理の実務に定着しており、現代の生産管理に大きく貢献しました(宮田,2001)。
 また、ピーター・ドラッガーの著作からの引用として、「科学的管理法の即時的な結果は、生産された製品コストが急激に削減されることである。しばしばコストは、10分の1とか20分の1にまで低下した」とある(クレイナー,2000)。

経営学とその周辺領域への貢献

 高い賃金と安い労務費をいかにして両立させることができるかという明確な問題意識のもとに、最上の方途(one best way)を追求してく過程で彼が到達した課業の研究とその確定の必要性の認識、および、それを現実のものとするための管理(計画)と作業(執行)の分離の意識的促進の主張は、まさに今日の経営学研究の基礎をひらくものであった(松岡,1969)。
 今日では看護を含め様々な学問領域に影響を与えている。

参考文献

松岡磐木(1969)「古典的経営管理論」高宮晋(編)『現代経営学の系譜』13-25頁,日本経営出版会
宮田矢八郎(2001)「テイラー 現代の生産管理の基礎をつくった「科学的管理法」」『経営学100年の思想』4-12頁,ダイヤモンド社
スチュアート・クレイナー著 嶋口充輝監訳 岸本義之・黒岩健一郎訳(2000)「ストップウオッチ・サイエンス「科学的管理法」の登場」『マネジメントの世紀 1901〜2000』7-19頁,東洋経済新報社

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