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はじめに
活き活きと活動している訪問看護ステーションはメンバー同士のコミュニケーションが豊かに行われている印象があります。訪問看護の仕事の特徴の一つに、メンバーがそれぞれ利用者宅でサービスを提供している、ということがあると思います。つまり、基本的にメンバー同士が同じ場所で仕事を進めることがない、ということです。こうした特徴を持つ訪問看護師の仕事をチームとして進めていくには、コミュニケーションがキーとなります。
メンバー同士が高めあい、外部環境の変化をものともせず、それぞれの利用者の在宅生活の継続に向けてチームとして活動している訪問看護ステーションでは、チームとして新しい知識が生み出されているはずです。しかし知識といってもメンバーの頭の中にあるものは見ることができないのでなかなか意識するのは難しいと思います。
そんなとき、知識の創造を、形式知(数値や文字で表せるもの)と暗黙知(個人の行動、価値観、情念に根ざした言語化しにくいもの)の相互作用として捉え、理論化した「知識創造理論」の思考的枠組みが、チームとして知識をどのように作り上げていくかを考えていくときに役立つと思います。
「知識創造理論」とは
知識を形式知と暗黙知の2つとして捉え、この2つの相互作用によって組織的に知識を生み出すプロセスを「SECI」(セキ)モデルとして理論化したものです。暗黙知を共感する「共同化(socialization)」、暗黙知を概念に変換する「表出化(externalization)」、形式知を理論モデル・物語にする「連結化(combination)」、形式知を行動・具現化する「内面化(internalization)」からなります。
「知識創造理論」の成り立ち
1990年に、当時一橋大学の教授であった野中郁次郎氏が『知識創造の経営』を日本語で出版したのが「知識創造理論」の始まりです。その後、英語でハーバード・ビジネス・レビュー誌(ビジネスパーソン向けの雑誌)やオーガニセーション・サイエンス誌(有名な経営学の専門誌)に「知識創造理論」の論文が掲載され、1995年に出版された『知識創造企業』という書籍でこの理論は世界的に知られることとなりました。この本の著者である野中郁次郎氏と竹内弘高氏は今も精力的に研究活動を継続しており、2020年には本書の続編となる『ワイズカンパニー』を出版し、「知識創造理論」は今も発展を続けています。
まとめ
ステーション運営を考えるとき、目には見えない「知識」について考えるきっかけを示してくれる「知識創造理論」は大きな示唆を与えてくれるのではないでしょうか。
訪問看護チームとして、暗黙知の共有化がすすむ「場」を用意しなくてはいけませんし、そしてその暗黙知を、例えば新人にもわかる形に文章化するなどもしなくてはなりません。
このようなことを意識して活動していくと、その訪問看護ステーションは「活き活き」としてくるのではないかと思います。
参考文献
野中郁次郎「私の履歴書」日本経済新聞,朝刊,2019年9月23日
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