看護管理の教科書に出てくる「人間関係論」をはじめた メイヨー(George Elton Mayo)とはどのような人物で何をしたのか

目次

はじめに


 看護管理の教科書などを開くと、テイラーに続いて登場するのはメイヨーであることが多いのではないでしょうか。ホーソン工場実験とともに書かれていることが多い印象を私は持ちました。今回はメイヨーについて、どんな人で何をしたのかを簡単な説明します。メイヨーを知ることで、看護管理などの教科書を読むときの手助けになればと考えています。

略歴


 メイヨーは、1880年にオーストラリア南部の州都アデレードで生まれました。アデレード大学で医学を学び始めたが途中、心理学専攻に変わりました。1911年にオーストラリアのクイーンズランド大学で論理学、倫理学、心理学の講師となり、1919年に新設された哲学講座の教授に任命されました(宮田,2001)。渡米前にフロイト、ユング、ジャネなどの「新しい心理学」を研究し、産業社会への適用を試みるようになりました。そして第一次大戦後の戦争神経症の患者などの治療に連想テストや催眠などの臨床技術を使用しました。1923年にはロックフェラー財団の援助を受けてペンシルヴァニ大学の研究員に就き、フィラデルフィア織物工場での労働者の妄想、生産高と労働異動の関係などの調査に従事しました(吉原,1999)。
 産業上の諸研究がハーバード・ビジネス・スクールのディーンであったドーナム(Wallace Brett Donham,1877-1953)の注意をひき、その要請でメイヨーは1926年にHBSのスタッフに加わりました(坂井,1980)。1928年ごろから本格的にホーソン実験に関わり、1947年まで教授としてHBSで教育と研究に従事。1949年にイギリスで亡くなりました。 

ホーソン工場実験とはなんであったのか


 ホーソン工場実験は、1924年から3年間、照明実験を行い、その後メイヨーらが携わってからは1932年半ばまで行われています。実験の舞台を提供したのはシカゴのウエスターン・エレクトリック社という従業員4万人を擁する企業です。(宮田,2001)。
 この実験は、①作業条件を変化させた被験者職場での実験と②被験者への面接調査(約1万名)と並行して職場での被験者の行動を直接観察することによって行われました。
 そしてこの実験によって、経営の社会的心理的協働過程に眼を開かせ、人間性の認識と自発的協働の促進にもとづいた新しい管理活動のあり方を示唆したことで有名です(土方,1969)。
 この実験の最終的な調査報告書はレスリスバーガー(メイヨーの弟子)とデイックソン(ウエスターん・エレクトリック社の社員)の共著である『経営と労働者』が1939年に公刊されました。この間、実験に直接に関わった研究者により約40篇のホーソン実験に関する論文が発表されました(吉原,2005)。

メイヨーの問題意識とホーソン実験から得られた研究成果


 メイヨーは産業文明における技術進展と人間特性とのズレから生じる様々な問題について、心理学や社会学の手法の適用により対処方法を講じようとしていました。メイヨーの興味関心は、個人と社会との相互作用にあったのです。
 ホーソン工場実験では、労働者の有機体の変化、精神的態度変化、そして生産高の変化という3つの変化の効果を求めました。その結果、疲労は本質的に病気と同じであるという当時の産業界の常識が間違いであることが明らかになり、労働者の「人間状況」理解が不可欠であることがわかりました。このことから実務においては、労働者に対する監督方法に変化が起こりました。その変化した監督方法とは面接計画でメイヨーが指導した、「話す」ことよりも「聴く」ことに専念する非指示的方法でした(吉原,2005)。

まとめ

 メイヨーは膨大なデータを集め、産業社会で働く人々は単なるテイラーの科学的管理法が想定するような「経済人」ではないことを発見しました。メイヨーが行った一連の実験からわかったことが、マズロー、ハーズバーグ、マクレガーといったのちの行動科学の展開につながっていきました。

参考資料


青柳哲也(1992)「エルトン・メーヨー ーその管理の思想ー」坂井正廣編『人間・組織・管理〔新版〕』105-117頁、文眞堂
土方文一郎(1969)「リーダーシップ論の史的展開と今日的課題」高宮晋(編)『現代経営学の系譜』288-333頁,日本経営出版会
宮田矢八郎(2001)「メイヨー 行動科学研究の端緒となったホーソン実験」『経営学100年の思想』128-136頁、ダイヤモンド社
坂井正廣(1980)「レスリスバーガー研究序説(Ⅰ)」『青山経営論集』第15巻、第2・3号合併号、278-300頁、青山学院大学
吉原正彦(1999)「経営理論の追求とエルトン・メイヨーの就任」『青森公立大学経営経済学研究』第4巻、第2号、24-40頁、青森公立大学
吉原正彦(2005)「人間関係論の芽咲き-メイヨーと1934年論文-」『青森公立大学経営経済学研究』第10巻、第2号、21-39頁、青森公立大学

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