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合同会社manabicoが提供する研修は「ケースメソッド」という授業方法で行われる。ケースメソッドとは端的に言えば、「ケース教材をもとに、参加者相互に討議することで学ばせる授業方法」(髙木・竹内,2010)である。
ケースメソッドの起源
ケースメソッドという授業方法がいつどこで始まったのかと言えば、HBS(ハーバード・ビジネス・スクール)である。日本ではKBS(慶應義塾大学ビジネス・スクール)がHBSで開発されたケースメソッドを最も早い時期に導入し、今もこの授業方法で授業を行なっている。
日本ケースセンター所長で名古屋商科大学ビジネススクールの竹内伸一教授は著書で次のようにケースメソッド教育の原点について述べている。
HBS(Harvard Business School)のガービン教授(David A. Garvin)によれば、この教授法の原初型は、1870年ごろから、HLS(Harvard Law School)のラングデル校長(Christopher C. Langdel)によって米国ではじまった。当初のものは、「case(裁判の判例)を用いて行われた討論授業」における教授法であるが、今日、筆者らが日常的に行なっているケースメソッド教育の原点は、1920年代から同じハーバード大学のビジネススクールであるHBSではじまった、「case(経営上の問題直面場面を物語風に記述した事例教材)を用いた討論授業」である。当時の教授会記録によれば、この教授法をはじめは”Case System”と呼んでおり、のちに”Case Method”と呼ぶようになったようだ(竹内,2020)。
教師の視点からの説明
簡単ではあるがケースメソッドの歴史を押さえた次は、ケースメソッドによる授業について教師の視点からの説明を行う。
『ケース・メソッド教授法』の訳者はしがきで髙木晴夫教授(慶應義塾大学名誉教授、現名古屋商科大学ビジネススクール教授)が書いたものが簡潔でわかりやすい。以下に引用する。
このやり方(ケースメソッドで教えること:筆者注)をする教師は、学生と一緒になってクラス全体で討論しながら授業を進める。討論は英語で言うとディスカッション。すなわちケース・メソッド授業は、ディスカッション形式の授業である。
ケース・メソッド授業ではディスカッションは、教材の資料(実際の出来事が記述された数ページの事例、つまりケースのこと)をもとに行う。学生たちはケースから考えられる問題についてさまざまな角度から意見を出し、ディスカッションをする。このとき、教師はディスカッション・リーダーシップを取ることで、クラスの議論が有益な展開になるよう論点の流れの舵を取る。
ケース・メソッド授業では、教師が教科書を使いつつ講義するオーソドックスな授業のやり方に比べ、クラスじゅうで双方向的な発言がたくさんなされる。講義が教師から学生へ向けてほとんど一方通行になっているのとは対照的である(髙木,2010)。
これまでの記述でケースメソッドについてのイメージは少し湧いただろうか。そうであるかもしれないし、むしろ疑問が生じたかもしれない。ケースメソッドと一言で表現される授業方法には実はたくさんの要素が含まれているのである。
再びケースメソッドとは何か
ケースメソッドによる教育や研修の実践は、なにもビジネススクールに限ったことではない。今現在、様々な場所で行われており、医療や介護に関わる人々に向けたケースメソッド研修も行われている。当然みなさんの中にも、ケースメソッドで行われた授業や研修を受けた経験のある方はいるかもしれない。実はケースメソッドについてもつイメージというのは、その人その人によって違うのだ。多くの人々の中において様々にイメージされているケースメソッドについて、特にわたしたちが提供するケースメソッドとはどういうものかをこれから記述していく。その際、ケースメソッドについての焦点の当て方を複数にすることで、ケースメソッドについての多面的な理解が得られるようにしたいと考えている。
ケースメソッドとは何かを説明するにあたり、いっぺんに全てを記述することは非常に難しいと考えている。そこでまず、一冊の本の力を借りることにする(正確には、その本に掲載されている4つのエッセイである)
その本とは1954年に出版された『The Case Method at the Harvard Business School』である。その名の通り、『ハーバード・ビジネス・スクールにおけるケース・メソッド』について書かれた論文集である。全文ではないが『ケース・メソッドの理論と実際』という書名で1978年に慶應義塾大学ビジネス・スクールの訳で翻訳されている。
さて次回は、この論集の巻頭にあるデューイングのエッセイからケースメソッドとは何かについて説明をする。
参考文献
髙木晴夫監修、竹内伸一著(2010)『ケースメソッド教授法入門ー理論・技法・演習・ココロー』18頁、慶應義塾大学出版会
髙木晴夫訳(2010)『ケース・メソッド教授法』ⅲ頁、ダイヤモンド社
McNair,Malcom P. (ed.)(1954)The Case Method at the Harvard Business School,McGraw-Hill.(慶應義塾大学ビジネス・スクール訳(1977)『ケース・メソッドの理論と実際』東洋経済新報社)
竹内伸一「ケースメソッド教育とは」髙木晴夫著『名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継 02 リーダーシップ』14頁、ディスカヴァー・トゥエンティワン
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