本の紹介『孤独の科学ー人はなぜ寂しくなるのか』

目次

はじめに

 訪問看護ステーションのスタッフをマネジメントするにあたって、ステーションの人間関係は非常に重要な要素であると思います。人間関係とそこから生じてくる問題が悩みである、という訪問看護管理者さんは多いのではないでしょうか。
 blogではこれまで、ステーションのマネジメントに役立つ理論をいくつか紹介してきています。ハーズバーグの二要因理論や、チームが機能するメカニズム奉仕からはじめて信頼を得て人々を導くリーダーシップスタイル等です。
 今回ご紹介する『孤独の科学ー人はなぜ寂しくなるのか』は、孤独感が人間にどのような影響を与えるのか、言い換えるとなぜ人間はつながりを求めるのかについて、様々な学問領域の知見を用いて解き明かしていきます。
 マネジメントという仕事をする訪問看護管理者の方には、そもそも人間ってどういう存在なのか、を考える良いきっかけになる本であると思います。

本書は三部構成

 本書は三部構成です。第一部は著者らの研究で明らかになった孤独が人々に与える数々の悪影響とその仕組みを描き出しています。続く第二部では著者らの行った社会的孤立が人々に与える影響についての研究成果を脳科学、神経科学、心理学といった研究知見からも捉えなおします。そして第三部では社会的つながりを求める性質を持つ人間という種の特徴を認識し、現代社会にどのように適応していくべきかのヒントを提示しています。

人類の祖先は厳しい環境下において1人では生きていけなかった

 本書では、「身体的な痛みや飢えや渇きと同様に孤独感は重要な機能を果たす」と述べています。お腹が空いたらご飯を食べなければ餓死してしまうように、孤独になると死んでしまう時代を我々の祖先は生きてきたのです。孤独を避けることが生き残る確率を高め、そうした特徴をもった人類が生き残り、現代の人々にまでこの特徴が受け継がれているのです。

「初期の人類は集団でいたほうが生存の可能性が高かったため、他者とともにいる喜びを維持させつつ、意に反して独りになった時には不安感を生み出す遺伝子が選択されて、進化の過程で密接な結びつきを好む性向が強化された」

現代社会において祖先から受け継いだ孤独感はオーバースペックである

 しかし、人間を取り巻く社会環境は狩猟採集を行なっていた祖先の時代とは大きく変化しました。先祖たちは孤独を避けるために反射的に全力で行動しました。しかし、この生き残るために必須であったシグナルは危機を避けるための瞬間的な行動を身体に強いるという副作用も起こしました。
 祖先の時代から現代へと時が経つにつれ、人間の知的・社会的・心理的複雑さは増し、孤独感から生じる危機を避けるという単純な行動は、この行動の積み重なりにより悪循環へと発展しました。そして孤独感は身体に負荷を与え続け、年月を重ねるごとに身体に悪影響を及ぼしていくのです。

孤独感から解放されるためには意識的に人とのつながりを作る必要があるが…

 当たり前ですが孤独感は自分1人ではどうにもなりません。他者が必要になります。しかし、孤独感は人を無関心にし、自己制御の感覚も衰えさせます。これは危機を避けるために動けと遺伝子が人の意識を駆り立てるためです。これが孤独感の非常に厄介な点であり、人間には社会的な関係が必要であることの証でもあります。

まとめ

 人間の身体の諸機能は無意識に動いている部分が多くあります。本書はそうした無意識に動いている諸機能について目を向けるきっかけを提供してくれます。例えば自分が他者に対して攻撃的になっている時、これは自己防衛のためにそのようになっているのだ、とどこか自分を空から見つめるように気がつくことができるきっかけになるかもしれません。
 誰かが気づき、社会的な関係を良好にするために行動しなければならないのです。これは大変なことですが、訪問看護管理者の大事な役割の一つではないでしょうか。

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