あなたは”キング”ですか?それとも”リッチ”ですか?本の紹介『起業家はどこで選択を誤るのか―スタートアップが必ず陥る9つのジレンマ』

目次

はじめに

 訪問看護ステーション経営を始めた看護師の方は起業家である、と言うことができると思います。今回はこの起業家という点から訪問看護ステーションの経営者について考えていきます。

 今回ご紹介する、『起業家はどこで選択を誤るのか――スタートアップが必ず陥る9つのジレンマ』は、2000〜2009年に数千のアメリカのテクノロジーとライフサイエンス業界でスタートアップ(ある事業をゼロから立ち上げて、拡大を)した企業(起業家)を対象にした調査データを定量的に分析した著書です。

起業してからの時間軸で関係者と創業者のジレンマを捉える

 本書は、スタートアップの各関係者(共同経営者、VC、従業員、投資家等)との間でファウンダー(会社の創業者)が直面するジレンマを、起業してからの時間軸とともに、人間関係、役割、報酬の3側面で捉えています。

 アメリカの事例が本書では扱われていますが、スタッフやその他関係者の人々とどのように付き合っていくのかについては訪問看護ステーションの経営者の方にも非常に参考になる点が多いと思います。起業家が事業を進めていく際に直面する問題について、本書は優れた問いを投げかけています。

・創業は1人でおこなうべきか?
・チームで創業した場合、人間関係、役割、報酬をどうするのか?
・拡大する場合、雇用、資金はどう調達するのか?
・資金を得るために株を手放すのか、それとも資金をあきらめるのか?
・CEO交代を告げられたとき、どのように対応するのか?

 これらの問いについて、起業前によく検討しておくことが重要です。しかし起業前からこれらを検討しておくことは難しく、そのため事業が成長していくと起業家は様々なジレンマに出会うことになります。数多くのことを気をつけるのが難しいとすれば、何かこれだけは気をつけておこうという点があるとありがたいと思います。

”キング”なのか”リッチ”なのか自らに問いかけて一貫性を保つ

 本書は、起業家は経済的利益に重きをおくのか(リッチ)、それとも意思決定のコントロール維持に重きをおくのか(キング)、どちらを優先するのかを常に意識しなくてはならない、と述べます。これは一貫性にかけた判断を続けていくと、結局は失敗してしまう可能性が高いためです。
 起業家のすべてのジレンマの背後にはこの「富とコントロールのジレンマ」があります。そのため、起業家は流されるのではなく、流れをつくる必要があります。自らの特性(キングなのかリッチなのか)と行動が一致しているかどうか、絶えず意識し続ける必要があります。

おわりに

 訪問看護ステーションを経営する際に、どのようにケアを提供していくのかということについては当然多くのことを起業前にも起業後にも考えていると思います。しかし、事業が継続し拡大していくときに、人間関係、役割、報酬についてどのように一貫性を保って変化させていくのか、について事前に詳細な検討をしている方はそう多くはないと思います。
 本書はそういった重要だが見落としがちな点について気づかせてくれます。

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